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「変」でおなじみの奥浩哉がYJで描くSF漫画。どちらかと言うとコミカルなラブコメ、という印象があった奥浩哉がついに本格SFに手を出した!もともと不条理な設定・不思議な世界観を持つ彼が、シリアスなSFを描くとこういう緊迫感につながるのか、という作品です。
設定は非常に不可解。無気力な主人公、玄野計(くろの・けい)は学校の帰りに駅のホームで線路に落ちてしまった浮浪者に出くわす。人のことなど知ったことではない彼は当然その浮浪者のことを見殺しにしようとするが、偶然居合わせた小学生の頃の親友、加藤が浮浪者を助けようと線路に降りて行ってしまい、彼自身も線路に降りて救助を手伝う羽目になる。だが浮浪者を助け上げているうちに自分たちが避難しそこない、無惨にも電車にはねられてしまう。だが即死と思われた加藤と玄野は死んだ瞬間になぜかとあるマンションの一室に瞬間移動してしまう。そこには同じように死んだ人間が数人集められていて、彼らは「ガンツ」の指令のもと、何の説明もないまま武器を与えられ、「宇宙人狩り」をさせられるのであった…。
ちなみに主人公達にはなぜこのマンションに集まられたのか、ここはどこなのか、ガンツとは何なのか、なぜ宇宙人を狩らねばならないのか、概要の説明がまったくなく、マンションに集められた登場人物たちはただひたすらガンツの指令に従うしかありません。銃や防御スーツのようなものも与えられるのですが使い方や威力の説明もなし。読者にも何の説明も与えられないので主人公と同様に断片的な情報から全体像を推察するしかありません。ある意味訳が分からないですが、読者が主人公と同じ立場になってゼロの状態から読みながら推理するという状況がスリルを呼びます。最初の状況にたいして登場人物にも読者にも一切なんの情報も与えられない、というところで「Cube」というSF映画を思わせるものがあります。あと、主人公の意志に関わらず強制的に誰もいない街で殺しあいをさせられるという不気味な状況は、藤子Fの短編「ひとりぼっちの宇宙戦争」にもヒントを得ているのではないかな?と思ってしまいました。
この漫画のすごいところはまず先にも言った「読者にも状況がよく飲み込めない」という不安感、気味の悪さ。そして内蔵などの残虐な描写のオンパレード。そしてそういうグロいものを目にしたときの人間のリアクションのリアルさでしょうか。ただ怖くてグロいだけでは読んでいて不快かもしれませんが、そこが奥浩哉の画力と彼独特のユーモラス感、のんきさによって微妙なバランスをとっていて実に絶妙。目の前で人が内蔵を出しながら死んでいる時にホラー映画のように「キャー!!」という画一的な反応ではなく、吐いたり、逆に目の前の死体が本物かどうか疑ってしまう、という描写は単純に恐れおののくよりかえってリアリティを増しています。
この文章を書いている時点ではまだまだガンツの謎は全く解けていません。この漫画、現在断片的に見えてきているガンツに関する情報が、最終的にうまくすべてのつじつまがあって大円団で終わればとてつもない日本漫画史に残る名作になる可能性があります。ただ、奥浩哉の性質から言って中途半端なまま途中で破綻して尻切れのまま打ち切りで終わってしまいそうなんだよなあ、、、。もともと不思議な設定を考え出すのは得意だが、それに対する論理的な説明はしないタイプの人だし(もしくはドリフのコントの終わり方のようなすごいドタバタナンセンスなオチで終わる)。彼の短編集の「糸」や「缶」なんてまさにそのパターン。
いずれにしても現在私がもっとも注目している作品です。ぜひ一読をお勧めします。
頼む!きちんとしたかたちで終わってくれ!途中で投げ出さないでくれ!奥!
2001年10月13日15時59分
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