「林太郎の恋」作:国栖治雄 画:岡田ユキオ(講談社)
漫画のタイトルと、単行本のスーツ姿の女性の絵から見て「ははあ、オフィスラブあたりの話か」と思う人がほとんどだと思うのですが、これが全然違う。通産省のエリート若手官僚(役職名は通産省資源エネルギー庁石油部計画課筆頭課長補佐。長い!)の合田林太郎が、通産省の派閥抗争の中で日本の10年先を見据えながら独自のエネルギー政策を実行に移していくストーリー。はっきり言ってタイトルとはほど遠い生臭い話です。
まずこれを読んで「官僚って大変なんだなあ」というのが正直な感想。最近の不祥事で官僚と言えば不正や天下りなどの、民間に比べて楽ばかりしておいしい思いをしているやつら、というイメージがありますが、この省庁間の権益争い、省庁内でのポスト争い、日本の将来への責任などの激しさはとてもおいしい仕事ではないことが分かります。
何かの計画を立てて実行に移すにしても、派閥間の微妙な人間関係、政治家とのかけひき、自分の地位の保身、根回しなどの複数の要因が同時に絡んできてややこしいことややこしいこと!正直言ってボーッと読んでいると何がなんだか分からなくなってくるほどです。
もっとも実質的に日本の方向を担うエリート官僚が、日本の国益や国民の利益などの追求は二の次にこのような複雑に絡み合った事情や力関係を中心に考えざるを得ない現状の構造に問題があるのは確かなのですが。せっかくの能力もこういういざこざに使われていくのか、という印象は否めません。この漫画では主人公の合田林太郎は常に自分の利益を考えずに10年先の日本を見据えて実行し、さらに普通の官僚がこなすような複雑な派閥抗争をも解決できるスーパーマンとして描かれているのですが、実際はそうもいかないんだろうし、、。
しかしやはり日本中の優秀な人材が集まってくる通産相の中でのポスト争いがいかに知力や陰謀をつくして行われているかという描写は実にスリリングで面白い。ちょっと官僚に対する見方が変わる本です。真っ正直な正義感をもっていれば日本を正しい方向に持っていけるというわけでもないでしょうし。現状の官僚機構が正しく機能しているかどうかははなはだ疑問ですが、やはり多数の国民を擁する巨大な国を動かすのは、軍人でも単なる人気者でもなく、目先でない将来を見据えることの出来るその国のとびきり優秀な人間に任すことが肝要なのではないでしょうか?
合田林太郎が海外のエージェント(女)に「あなたはなぜ官僚になったの?国の進路を決めるのは政治家のはずよ」と聞かれて、
「いやそれは違う。どこの国でも優秀な人間の集まるところが国の進路を決める」
と答えていたのが非常に印象的でした。
複雑な省庁内の工作は一読の価値があるので、とにかくタイトルに誤魔化されずに一度読んでいただきたい漫画です。もっと高い評価を受けてもいい漫画だと思います。
2001年04月08日07時45分
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